古いフロントテレコンは「倍率は上がるが画質は大きく低下する」というイメージがあります。しかし、それは暗視撮影や赤外線撮影でも同じなのでしょうか。今回検証するのは、パナソニック製1.5倍フロントテレコンLTZ10です。フルスペクトル改造したGF5とTokina SD400mm F5.6を組み合わせ、850nm赤外線LEDによるナイトビジョン撮影、IR720フィルター撮影、動画撮影、さらに1.5倍クロップとの比較まで実施しました。古いテレコンが現代の赤外線撮影でどこまで通用するのか、実写ベースで詳しく検証します。
暗視撮影についても検証してみました。この比較は昼間の可視光よりも差の判定が難しいです。理由は、暗所撮影をはじめ、高ISOノイズ、赤外線LED照射、遠距離被写体などが重なっていて、レンズ性能以外の要素がかなり画質を支配しているためです。それでも傾向は見えてきます。
SD400単体絞り検証
まずはSD400単体の性能から見ていきましょう。距離は100m程度で撮影にはVCSELタイプの高輝度外部赤外線ライト(850nm)を照射しています。絞り値ごとの写りを比較します。α7S+SD400+LTZ10の比較とは傾向が少し違っていて、今回はGF5(フルスペクトル)+SD400単体の純粋なレンズ性能と、マイクロフォーサーズセンサーの影響が見えています。
まず結論からいうと、F5.6 < F8 ≒ F11 > F16という典型的な望遠レンズの挙動に見えます。
F5.6から。最も甘いです。看板上部の白文字を見ると、輪郭が太い、コントラストが低い、白いにじみがあるように見えます。これは赤外線撮影でよく見られる、球面収差、IRハロの影響です。SD400は可視光では結構シャープなレンズですが、IRでは開放付近で収差が残っています。
F8で一気に改善しています。文字のエッジが締まり、人物マークの輪郭もはっきりしています。背景の樹木もコントラストが向上しています。この時点で実用上のベストと言っていいレベルです。
F11が今回のベストに見えます。特に看板上部の白文字、ピクトグラム、下部の細文字が最も見やすいです。また、看板の黒枠と白地の境界も最もシャープです。前回のα7Sの比較でもF11が良かったですが、GF5でも同じ傾向が出ています。
F16は少し低下しています。F11よりエッジが太る、細文字が眠い、背景の葉が溶ける印象です。これはレンズ性能の低下ではなく回折の影響が主因と考えられます。
F22は、ぱっと見では意外と悪くありません。看板の輪郭はまだ残っていますし、看板上部の白文字も読めます。ただし拡大して見ると、細かい文字が潰れ始めており、木の葉のディテールが溶け、エッジのキレが弱いという状態です。全体像は維持しているが、微細ディテールは明確に低下しており、これは典型的な回折です。
GF5のセンサーは約3.7μmピッチなので、赤外線の720nm付近では可視光よりさらに回折が大きくなります。実際にはF16で既に回折が始まり、F22ではかなり進行していると考えられます。
F5.6からF16までの4枚を並べてみました。
F8.0:92点 解像感・コントラスト・ノイズのバランスが最良
F11 :95点 最も締まって見える。文字や輪郭も安定
F16 :85点 回折の影響が出始め、F11より細部が少し甘い
通常の可視光撮影なら、F5.6 → やや甘い、F8 → ベスト、F11 → ほぼ同等、F16 → 回折で低下となることが多いのですが、赤外線では事情が少し異なります。理由は、SD400は可視光用設計で720nm付近では球面収差が増えますが、絞ることで周辺光線をカットできるためです。
その結果、F5.6で残っていた赤外線特有のボヤけがF8〜F11で改善されているように見えます。一方でF16になると、GF5のセンサーは1600万画素M4/3、ピクセルピッチ約3.7μmなので回折の影響が目立ち始めます。
夜間はF11にするとシャッター速度低下でブレやノイズが増えるため、実戦ではF8が最も使いやすそうです。一方、昼間の赤外線風景撮影ならF11まで絞る価値があります。今回の比較を見る限り、SD400は赤外線域でもかなり健闘している部類の望遠レンズです。
LTZ10装着との比較
このあとテストするLTZ10装着時の比較と見比べると、テレコンなしの今回の画像は全体的なマイクロコントラストが一段高く見えます。つまり、LTZ10の画質低下は小さいもののゼロではなく、単体100に対して85~90程度という評価は、この作例から見てもかなり妥当な数字だと思います。
なぜGF5はF16でまだ使えるのか
理論上はマイクロフォーサーズでF16はかなり回折が出ます。しかし今回の画像ではナイトビジョン撮影、高倍率望遠、赤外線、大気の揺らぎが支配的です。そのため回折による低下より、絞りによる収差改善効果の方がまだ勝っています。結果としてF16でも極端には悪化していません。
α7Sとの比較
面白いのはここです。以前のα7SではF11とF16の差が比較的明確でした。一方今回のGF5ではF11とF16の差が小さいです。理由はセンサーサイズです。GF5は2倍クロップなので、画面中央付近しか使いません。SD400の周辺収差をほぼ使わずに済んでいます。そのためレンズの欠点が見えにくくなっています。
LTZ10装着
ここからはLTZ10を装着しての検証です。絞り値の比較から。F5.6では、看板上部の文字の輪郭がやや滲み、看板枠のエッジが甘く、白地部分に少しベール感がでています。
F8では、上部の白文字が少し締まるように見えます。これは昼間の可視光比較と同じ傾向です。つまり、SD400の残存収差がF8でかなり抑えられることを示しています。
F8からF11の差はかなり小さいです。看板の上部文字やアイコンを見ると、F11の方がわずかに安定しているようにも見えますが、このレベルだとピント誤差、シーイング、ノイズに埋もれる領域です。実写上はほぼ同等でしょう。
F16は、少し傾向が変わります。文字を見るとコントラストが少し低下し、エッジが太り、微細情報が減るように見えます。特に下部の白文字付近はF8やF11より少し眠いです。これは可視光比較で見えたものと同じで、回折の影響が出始めている可能性があります。
F22です。こちらは少し予想外です。テレコンを入れるとレンズ性能低下、回折増加、コントラスト低下が重なるので、もっと酷くなるかと思いました。しかし実際には看板の輪郭は維持し、コントラストも大きく崩れておらず、木の幹も判別可能です。LTZ10の収差は比較的良好と思われます。LTZ10は解像力を少し落とすものの、収差を盛大に増やすタイプではありません。
F5.6からF16までの4枚を並べてみました。
赤外線撮影特有の要素
面白いのは、昼間の比較よりF5.6とF11の差が小さいことです。これは赤外線の波長が長いからです。可視光の550nm付近に対し、720nm付近では色収差が目立ちにくくなる、レンズの収差が目立ちにくい傾向があります。そのためIR撮影では、可視光ほど絞ったら急激に改善という変化が出にくいことがあります。
実用的なベスト絞り
この作例から判断すると、画質優先ならF8〜F11、シャッター速度優先ならF5.6で、F16は非推奨という印象です。
可視光比較と合わせて考えると
興味深いのは、可視光でもIRでも結論がほぼ同じなことです。
- F5.6:収差が少し残る
- F8.0:かなり改善
- F11:ピーク付近
- F16:回折で後退
- F22:回折で溶ける
という流れが共通しています。つまりSD400mm F5.6+LTZ-10の組み合わせは、可視光でもIRでもF8〜F11がスイートスポットである可能性が高いです。ベストはF11、実用上はF8~F11、F16まで許容、F22は緊急避難的という結果に見えます。
特に意外なのは、古い400mm望遠でありながら赤外線域でもF11まで素直に画質が向上している点です。SD400は赤外線適性という意味では、かなり当たり個体・当たり設計の部類だと思います。
ただし夜間IR撮影ではもう一つ重要な要素があります。それはシャッター速度です。F11やF16に絞ると露光時間が伸び、手ブレや被写体ブレ、さらには大気の揺らぎの影響を受けやすくなります。実際のナイトビジョン運用なら、理論上の最高画質はF11でも、総合的にはF8の方が歩留まりが良い可能性が高いと感じます。今回の画像を見る限り、F8が最もバランスの良い設定に見えます。
1.5倍クロップと比較
SD400単体の画像を1.5倍に拡大したものと比較してみましょう。LTZ-10の画質低下はあるものの、1.5倍クロップ拡大よりは情報量が増えているように見えます。少なくとも、この作例では単純に150%拡大した画像とLTZ-10で光学的に拡大した画像がほぼ互角か、わずかにLTZ-10有利に見えます。
看板文字の比較
最も分かりやすいのは、看板上部の白文字です。左(150%拡大)は、文字が少し太る、エッジが荒れる、ノイズに埋もれやすい傾向があります。一方右(LTZ-10)は、文字の輪郭がやや明瞭で、文字間の分離が良く、横線が少し細く見えます。
アイコン部分
看板中央のゴルフ、サッカー、バイクのマークを見ると、右のLTZ-10の方が形状が分かりやすいです。これは実際にセンサー上へ大きな像を投影している効果です。単なるデジタル拡大では得られない部分です。
背景の木
一方で背景を見ると、LTZ-10側は葉のコントラスト低下、微細なにじみ、ベールフレアが若干増えています。ここは以前の可視光比較と同じ傾向です。つまりLTZ-10は、解像力を増やす、その代わりコントラストを少し失うという性格が見えます。
夜間IR撮影特有の要素
今回特に重要なのは、ISO6400という条件です。GF5の1600万画素センサーでは、ISO6400になるとノイズ、ノイズリダクション、デモザイク処理の影響がかなり大きくなります。そのため、レンズ性能差よりもセンサー側のノイズの方が支配的になっています。
ナイトビジョン用途として見ると
この比較を見る限り、GF5+SD400では150%クロップよりLTZ-10を使った方がわずかに有利です。ただし差は劇的ではありません。体感的には、150%デジタル拡大:100、LTZ-10装着:110~120くらいの差です。
α7Sとの違い
以前のα7S比較では、1200万画素なのでテレコンの恩恵が比較的大きく見えました。一方GF5は1600万画素です。すでに画素密度が高いため、クロップで済ませるという選択肢も十分成立します。そのためGF5ではLTZ-10が圧勝ではなく、LTZ-10が少し有利くらいに見えます。
この作例から受ける印象としては、LTZ-10は赤外線撮影で確かにコントラストを少し落としています。しかし同時に看板の文字やアイコンの情報量は増やしており、画質を犠牲にして焦点距離だけ稼ぐテレコンというよりは、少しコントラストを失う代わりに実効解像をわずかに上げるテレコンと評価できそうです。少なくともこの画像を見る限り、GF5で150%クロップするならLTZ-10を付けた方が有利に見えます。
IR720フィルター装着
画像を比較するとIR720を入れた右側の方が、わずかにコントラストが高く見えます。一方で、解像力そのものはほぼ同等か、わずかに低下している可能性があります。
看板上部の文字
上部の白文字を見ると、IR720ありの右側は背景との分離が良く、白文字が浮き上がり、黒地が締まっているように見えます。これは解像力向上ではなく、ベールフレア低減によるコントラスト向上の可能性が高いです。
なぜIR720でコントラストが上がるのか
SD400は可視光用レンズです。フルスペクトル化GF5では、可視光、近赤外線が同時にセンサーへ到達します。この状態だと、レンズ内部で可視光焦点、赤外線焦点がズレます。いわゆるフォーカスシフトです。すると像がわずかににじみます。
IR720を入れると、720nm以下の光が大幅にカットされます。結果として可視光焦点、赤外線焦点の競合が減ります。つまり「波長帯が大幅に限定される」状態になります。そのため、コントラストが改善することがあります。
LTZ10との関係
以前の比較では、LTZ10でコントラスト低下、フレア増加が見えていました。しかしIR720を入れると、その悪化が少し減っています。つまり、LTZ10が悪いというより、可視光と赤外線の混在が悪さをしていた可能性があります。
背景の木
背景を見ると、IR720ありの方が木の境界が少し締まる、幹の黒が深い、モヤ感が減る印象があります。これは赤外線撮影でよく見られる特徴です。
IRフィルターの効果
今回の作例から受ける印象としては、SD400 + LTZ10 の組み合わせは、フルスペクトル状態より720nmフィルターを入れた方が安定しているように見えます。
特に看板の白文字や黒枠を見ると、IR720ありの方が眠さが少なく、ベールフレアも減っています。以前から話しているSD400のIR特性を考えると、このレンズは可視光と近赤外を同時に通すより、720nm以上に波長を限定した方が性能を発揮しやすい可能性があります。
なお、この比較で一番気になるのは、IR720を入れた右側で画質が大きく悪化していないことです。古い望遠レンズの中にはIRフィルターを入れると急激にハロや解像低下が出るものもありますが、この作例ではそうした症状はほとんど見えません。SD400は少なくとも720nm付近では比較的素直な挙動をしているように見えます。
動画撮影
動画撮影も検証してみました。このフレームを見る限り、LTZ10装着による画質低下はかなり小さいです。むしろ夜間動画としては予想以上に健闘しています。
まず解像感ですが、ベンチの木目や服のシワ、髪の毛の輪郭は十分残っています。女性の顔の輪郭や指先も大きく崩れていません。もしLTZ10が本当に解像力不足なら、人物の輪郭がもっと溶けるような描写になりますが、そうは見えません。
コントラスト低下
一方で気になるのは解像度よりもコントラストです。画面全体に黒が少し浮いており、紫のベールがかかったような描写で、微細なディテールが眠いという特徴があります。これは昼間比較でも見られた傾向で、SD400単体の低コントラスト、LTZ10による追加ガラス面、赤外線撮影特有の散乱、動画圧縮が重なった結果と思われます。
特にこのシーンでは人物の目が白く光っていますが、これは赤外線反射による典型的なアイシャインです。センサーやレンズの異常ではありません。
興味深いのは背景です。背景の暗部を見ると、木の輪郭は残っている、葉の塊も判別できる、大きなフレアは出ていないので、LTZ10は赤外線域で極端なハロやベールフレアを発生させているわけではなさそうです。
LTZ10は、使い物にならないテレコンどころか、赤外線暗視用途では意外と実用レベルに達しているように見えます。人物の顔やスマホの形状まで判別できているので、被写体の識別用途には十分な描写です。
暗視撮影におけるLTZ10の評価
看板比較から推測すると、SD400単体を100点とすると、SD400+LTZ10は85〜90点くらいの印象です。普通の1.4~1.5倍テレコンとしては悪くない数字です。検証で目立ったのはレンズ性能よりも、夜間の大気揺らぎ、高ISOノイズ、動画圧縮、フルスペクトル撮影によるコントラスト低下のほうです。
昼間の看板比較、IR720比較、絞り比較を総合すると、LTZ10は解像力を大きく落とすタイプではなく、コントラストを少し犠牲にして焦点距離を稼ぐタイプのテレコンと評価できます。特にGF5のような1600万画素級マイクロフォーサーズ機では、あとからトリミングするよりLTZ10で光学的に拡大したほうが有利になる場面も十分ありそうです。
LTZ10は、看板比較、昼間の照明塔比較、夜間IR比較を見る限り、解像力を大きく落とすタイプではなく、コントラストを少し犠牲にするタイプに見えます。これは実は望遠撮影ではかなり有利な特性です。解像力が落ちるとRAW現像で救いにくいけど、コントラスト低下は、黒レベル、トーンカーブ、明瞭度、かすみ除去でかなり回復できるからです。
実写ベースでは、LTZ10は高級純正1.4倍テレコンには及ばないが、安物テレコンより明らかに上。普通の純正1.4倍テレコンに近い位置という評価になります。SD400との組み合わせを見る限り、少なくとも中央画質だけなら昔の1.4倍クラスのテレコンと考えてよさそう。実写結果からは、総合で88点前後という評価です。これは中古で数千円クラスのアクセサリーとしてはかなり高コスパといえるでしょう。重量が重めなのはマイナスですが、小径の望遠レンズでもう少し倍率を上げたいということであればオススメです。
| テレコンの種類 | 総合評価(100点満点) |
|---|---|
| 高性能純正1.4倍テレコン | 90~97点 |
| 普通の純正1.4倍テレコン | 90~95点 |
| 高性能純正2倍テレコン | 75~90点 |
| 普通の純正2倍テレコン | 65~85点 |
| 古いサードパーティ製1.4倍テレコン | 70~90点 |
| 古いサードパーティ製2倍テレコン | 50~80点 |
| LTZ10 | 85~90点 |
まとめ|LTZ10は予想以上に健闘
今回の検証では、LTZ10は「解像力を大きく犠牲にして倍率だけを稼ぐ古いテレコン」という印象とは異なる結果になりました。確かにSD400単体と比較するとマイクロコントラストはわずかに低下しますが、解像力の低下は予想より小さく、実写では十分実用的な描写を維持しています。
絞りの比較では、SD400単体・LTZ10装着時ともにF8〜F11付近が最も安定しており、F16では回折の影響が見え始めるものの大きく破綻することはありませんでした。またIR720フィルターを使用すると、可視光と近赤外線の混在による影響が減少し、コントラストや見通しの良さが改善する傾向も確認できました。
興味深かったのは1.5倍クロップとの比較です。差は劇的ではないものの、LTZ10を使用した方が看板文字やアイコンの情報量がわずかに多く、単純なデジタル拡大より有利に見える場面がありました。特に1600万画素クラスのマイクロフォーサーズ機では、あとからトリミングするか、光学的に拡大するかの境界線上にある性能と言えそうです。
総合的に見ると、LTZ10は最新の高性能テレコンには及ばないものの、暗視撮影や赤外線撮影用途では予想以上に健闘しています。中古市場では非常に安価で入手できることを考えると、焦点距離を少し伸ばしたい赤外線撮影ユーザーにとっては、今でも十分試す価値のあるアクセサリーと言えるでしょう。
