SONY ハンディカム ナイトショット暗視撮影用の赤外線ライト(IRライト)についての話です。前回のレビューで、ハンディカム FDR-AX55のナイトショット撮影では、NV016やNV99Sのような暗視スコープと比べると赤外線域のセンサー感度が低いことがわかりました。このため、50mを越える遠距離撮影では、従来のパワーLEDタイプのIRライトでは光量が不足し画質がかなり低下します。ハンディカムで超遠距離暗視撮影をするためには、さらに輝度の高い赤外線ライトが必要です。
そこで、以前レビューしたNV99Sに搭載されている赤外線ライトがかなり明るいということで、新たにVCSELのレーザーIRトーチ(懐中電灯)を調達しました。従来のパワーLEDタイプと比較しながら詳しく性能検証していきます。
なお、今回の動画に登場する赤外線ライトなど各種機材はブログで入手方法など紹介しているので、詳しくは動画概要欄を参照ください。それではレビュースタートです。
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【赤外線ライト】
はじめに、暗視撮影における赤外線ライトの役割について簡単に説明しておきます。赤外線カメラでノイズの少ないきれいな画像を撮影するには、①赤外線感度の高いカメラセンサーと②十分な明るさの赤外線光投光器(IRライト)が必要です。
赤外線撮影も定常光での撮影と原理的には同じで、暗い場所では高感度のセンサーが有利です。加えて照明が明るいほどノイズの少ないきれいな画質が得られます。ハンディカムのセンサーは赤外線域の感度が低いため、赤外線専用カメラより大きな光量の赤外線ライトを用意することで、センサーの弱さを補うことができます。
【VCSEL】
今回検証するVCSELについて簡単に解説しておきます。VCSELは垂直共振器面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)の略称です。レーザー半導体から光を発するためレーザーライト、レーザートーチなど呼ばれることもあります。このVCSEL半導体はハイエンドのビデオプロジェクターなどにも採用されており、現在主流のパワーLEDと比べると、指向性が高く照射距離が長いのが特徴です。
従来型のパワーLEDでは半導体前面の配線や集光レンズの影響で、照射される光に縞模様(スリット)が出たり、ムラが生じたりしていたのに対して。
VCSELでは、レーザーの光源が平面で、光が均一に射出されるため、ムラの少ない安定した光を照射することができます。
【VCSELトーチ】
ということで、VCSELタイプの赤外線ライトを調達することに。AliExpressでVCSEL赤外線トーチを注文してみました。
UniqueFireというメーカーのVCSEL レーザーIRトーチで、UF-2002という型番です。価格が6千円とお高かったので、とりあえず850nmのもの1本を試しに購入です。
UniqueFire UF-2002D(※スイッチがディマータイプのモデル)
届いた商品はこんな感じです。付属品は本体とストラップのみ。18650電池や充電器は別売です。手元にあった18650電池1本をセットして使います。コンパクトな商品ですね。
スイッチです。長押しで電源オン・オフ、短押しで3段階に輝度調整できます。
VCSELの発光部です。パワーLEDのようなレンズは無く、四角い半導体から強力なレーザー光が照射されます。
レーザーの照射先には凸レンズが入っており、VCSELから照射されるレーザー光を拡散もしくは収斂します。
筒を回転させることでレンズ位置が前後し、照射される光をズームイン、ズームアウトできます。
【比較対象】
それではさっそく検証スタートです。IIIF150 Raptorのナイトビジョンカメラ(赤外線カメラ)で検証していきます。河原から50m離れた橋脚を撮影します。
撮影データを見るとISO 20000でシャッタースピードは1/8秒です。この状態で各LEDライトをズームした光を橋脚のコンクリート壁に当てて撮影します。
今回購入したVCSELトーチのほかに、比較対象として、①ビデオライト②小型IRトーチ③大型IRトーチーの3種類のIRライトを用意しました。さらに、NV99SやNV016を加えて赤外線ライトの性能を比べてみます。
【検証①】
まずはひと昔前のビデオライトから。ハンディカム用に購入した古いタイプの赤外線ビデオライトで、小型のLEDが20灯搭載されています。
足元は明るくなっていますが、橋脚のあたりまでは赤外線が届かないようで変化がありません。この手の小型LEDは室内用で広角に照射できますが、輝度が低く5m程度しか光が届かないようです。
続いては小型5W LEDです。前回、940nmと850nmとで比較レビューしたノーブランドの商品です。850nmタイプで比較します。
ズーム端で光を当てると、50m先でもかなり明るく写ります。
大型ヘッドの5W LEDです。ヘッドは大きいですが使用する電池は18650タイプ1本なので、LEDの輝度自体は同じでしょうか。
小型5W LEDと同程度の明るさです。ヘッドの大きさは異なりますが、ズーム端での輝度や照射範囲に大きな違いはないようです。
VCSELです。こちらは3段階で輝度を調整できます。
強です。VCSELタイプのライトは光を収斂させる範囲が狭く、パワーLEDと比べるとかなり明るい印象です。また、指向性(直進性)が高いため、パワーLEDと比べると足元のあたりはほとんど光っていません。
こちらは、暗視スコープ NV99Sの内蔵赤外線ライトです。搭載されているのはVCSELタイプのようです。
5W LEDと比べると輝度は同程度ですが照射範囲が広いです。
こちらはNV016の内蔵赤外線ライトです。最大輝度のレベル7です。NV99Sと比較してみると照射範囲は同程度ですが、明るさは上回っています。
ちなみに、NV016のライト部は写真のような感じです。TIRレンズが配置されていますが、半導体が隠れているため形式は不明です。
4枚の画像を並べてみます。静止画50mの比較では、ビデオライト以外はいずれも十分な輝度があるようです。
【動画撮影】
続いて、動画の画質を比べてみましょう。動画撮影ではシャッタースピードの上限が1/30秒になるため、1/8秒の静止画より2段ぶん画面が暗くなります。赤外線光なしではほとんど映りません。
小型850nmは、輝度は十分ですが、配線の影響で細いスリットが縦横に見えるのが気になります。
大型LEDも輝度的に問題ないレベルですが、こちらも半導体のスキマの配線部分が暗くなっています。ヘッドのレンズの大きさについては、望遠端での照射能力に差はないようです。広角の照射範囲が広いのかな。
VCSEL(強)の輝度は十分です。照射範囲が狭いので。
少しワイドにしてみました。こちらはムラのない光が当たっています。輝度も5W LEDより明るいです。
NV016です。レベル7です。照射範囲が広く、輝度も一番明るいですかね。
【50m検証結果】
ざっくりとした検証でしたが、距離50mではNV016の赤外線ライトが一番明るいようです。続いてVCSELですね。5W LEDは50m程度の距離なら十分な明るさですが、どちらもズーム端で縞模様が目立ちます。目立たないあたりまでズームするとちょっと暗いかなという印象です。
【遠距離】
ということで、場所を移して公園の芝生広場でもう少し距離を離して撮影してみます。90m先にある看板を撮影します。
日中スマホカメラで撮影するとこのような感じの場所です。画面中央の白い看板を望遠撮影します。
看板の大きさは200×50cmぐらいですかね。こちらでVCSELと5W LEDとを比較してみます。
Raptorのナイトビジョンカメラでは広角すぎるので、ハンディカム FDR-AX55のナイトショット機能を使用します。4K動画撮影時の望遠端倍率は手ブレ補正機能の都合で中心部を切り抜いて撮影するので光学30倍(35mm換算800mm相当)になります。
SONY 4K ビデオカメラ ハンディカム FDR-AX60
さらに、オリンパスの1.7倍テレコンバージョンレンズTCON-17を装着して1360mm(56倍)相当の超望遠撮影です。
OLYMPUS 1.7倍テレコン TCON-17(Amazonリンク)
照明なしだとこんな感じです。かろうじて看板の形が見えるくらいで、ほとんど見えません。C0005
小型850nmです。高輝度で遠くまで光が届きますが、ズーム端では配線の影響で縞模様になっているのが気になります。照射範囲は8メートル四方ぐらいでしょうか。
望遠端です。ハンディカムのセンサーは近赤外線域の感度が弱いため、Raptorのナイトビジョンカメラと比べるとかなり暗めです。文字があるのはわかりますが、細かい箇所は判読不能です。
大型LEDです。ズーム端では2つの長方形が浮いて出てきます。
望遠端です。こちらも同様に細かい文字までは判読できません。
VCSELの強です。パワーLEDと比べるとかなり明るいです。照射範囲が狭いのでズーム端では看板の周りは暗くなりますが、文字ははっきりと判読できます。3メートル四方ぐらいに光が当たっています。
画面全体に光が当たるようにズームアウトしてみました。これでも文字は読めますね。90m程度の距離でもVCSELなら感度の弱いハンディカムのナイトショットでも問題なく暗視撮影できることがわかります。
VCSELの赤外線光がどこまで届くかも調べてみました。250m離れた場所から橋の上へカメラを向けます。
こちらの看板を超望遠撮影です。
赤外線ライトなしではまったく見えません。
VCSELの赤外線光を向けると、250m先の小さな看板にもハンディカムのナイトショットで撮影できるだけの十分な赤外線光が届いているのがわかります。
続いて河原へ場所を移して、輝度の明るいNV016とVCSELとで比較してみました。85m先のスワンボートを撮影します。この日は満月で、赤外線ライトなしでもボートを視認できます。
NV016から見ていきましょう。スワンボートのお尻のAの文字にピントを合わせて撮影します。
望遠端です。NV016の赤外線ライトも強力ですが、ズーム機能が無いため、85m先では光が拡散しています。Aの文字はしっかり解像していますが、やや暗いです。
VCSELです。ズーム端で光を当てると85m先でもかなり明るいですね。
この距離でも光が強すぎて白飛びしています。
照射範囲を少し広げてみました。
全体に光が当たって適度な露出になりました。センサー感度の低いハンディカムでも80m程度の距離なら十分な画質を得られます。
もう1つテストです。NV016の内蔵赤外線ライトを当てた状態でハンディカムで50mの距離からナイトショット撮影です。十分な明るさですが。
さらに補助光としてVCSELを照射してみました。NV016の赤外線ライトも十分明るいですが、照射範囲が広いため望遠撮影ではやや光量不足を感じます。VCSELライトを加えることでさらに画質が改善しました。
【操作性】
今回レビューに使用したUniqueFireのUF2002ですが、ズーム操作時に筒を回転させる構造のため、ズーム端まで絞る操作に時間を要します。持つ場所を誤ると間違って電池フタが緩むことがあります。
また、筒の回転にある程度の力が必要なため、撮影中に照射範囲を調整するときにカメラ本体が動いて手ブレの原因になるのが気になります。
加えて、輝度を3段階で調整できるのは便利ですが、スイッチオンしたときにどの明るさで点灯しているのかが分かりにくいです。操作性にやや難ありかなという印象です。
ということで、比較用にもう1つAlonefireというブランドのTK504(VCSEL)を入手してみました。こちらは日本のAmazonで入手できます。UniqueFireの製品と比較してみましょう。
同梱品はこんな感じです。バッテリー、充電器、リモートスイッチ、レールマウントとコールドシュー用のアダプターが付属しているのはうれしい。
こちらは、筒を前後させるだけでズームイン・アウトできるので扱いやすいです。UniqueFireより軽い力で動くので、操作時に手ブレもおきにくいです。なお、Alonefireは輝度調整には対応しません。
明るさについては、どちらも18650バッテリーなので違いは無いのかな。
一応比較しておきましょう。250m離れた建物に向けて各赤外線ライトを照射してみます。
UniqueFireです。望遠端までズームするとレンズが暗くなるため暗くなりますが、この距離でも十分な赤外線が届いています。
Alonefireです。こちらのほうが明るいですね。照射範囲は同程度なので、光源の明るさが上回るようです。
【まとめ】
ということで、まとめです。赤外線域の感度が低いハンディカムのナイトショットでは、高輝度な外部赤外線ライトを使うのが効果的です。特に、VCSELタイプの製品は、従来のパワーLEDタイプのものと比べると指向性が高く、遠距離まで光が届くのが特長です。検証のとおり、250m離れていても赤外線光が届くのは驚きです。30-50mの中距離でも照射量が大きいので画質向上のメリットがあります。ハンディカムのナイトショットで遠距離赤外線撮影するならかなりオススメです。
マイナス面はパワーLEDタイプと比べると価格が高いことと、10-20m程度の近距離で広範囲を照射するには向いていないといったあたり。今回はUniqueFireとAlonefireの2製品をテストしましたが、Alonefireのほうが全体的な使い勝手は良いですね。付属品の充実さも含めてAlonefireが気に入っています。
UniqueFireは、付属品が少ないのがマイナスです。特に18650バッテリーは入手しづらい上に高価なので付属してほしかった。UniqueFireは輝度が3段階で調整できるのがメリットです。20-30mの近距離でも使うならUniqueFireがよいでしょう。
比較検証ではイマイチな結果に終わったパワーLEDタイプの赤外線ライトは、ズーム端で配線の影響によるムラが出るのが気になります。50mくらいの距離までなら使えますが、画質にこだわるなら20-30mあたりまでかなという印象です。
ということで、VCSEL赤外線ライトの検証でした。今回レビューした商品の入手方法や詳細はブログに掲載しているので、詳しく知りたい人は動画概要欄を参照ください。このチャンネルでは赤外線撮影に関する各種話題を扱っています。動画アップ時に通知をお届けできるのでチャンネル登録といいねいただけるとうれしいです。
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